過敏性腸症候群

過敏性腸症候群とは

大腸に加え、小腸も含めた腸管全体の機能異常が認められるため、過敏性大腸から名称が変わっています。粘膜に病変は見られませんが、蠕動運動(ぜんどううんどう)などの機能異常により腹痛や便秘、下痢などの症状が長期間続きます。
発生原因はまだはっきりとはわかっていません。腸の機能は自律神経によってコントロールされているため、緊張や不安、過労や睡眠不足といったさまざまなストレスの影響を受けやすく、それによって機能に問題が起こって便秘や下痢が起こると考えられています。
過敏性腸症候群は20~40歳代に発症しやすい傾向があり、先進国に多い疾患です。
繰り返す下痢や便秘といった典型的な症状は、仕事や学習、スポーツに大きな悪影響を及ぼしますし、QOL(クオリティ・オブ・ライフ)の低下につながります。トイレが気になって通勤や通学ができなくなるケースもあります。体質的なものと考えている方が多いのですが、適切な治療によって改善できる病気ですから、専門医へご相談ください。
なお、似たような症状を起こす疾患に、潰瘍性大腸炎やクローン病といった難病指定された疾患がありますし、多くの腸疾患で同様の症状を起こすことがあります。適切な治療のための鑑別に早めの受診をおすすめしています。

こんな経験はありませんか?

下記のセルフチェックで複数に心当たりがある場合、過敏性腸症候群の可能性が高いため、早めに受診してください。

  • 下痢と便秘を交互に繰り返す
  • 何の前触れもなく突然強い腹痛や下痢が起こる
  • 腹痛や下痢が不安で通勤、通学の電車内が苦痛
  • 仕事で大事な会議や打ち合わせ前に腹痛になることが多い
  • 試験の時、急にお腹が痛くなる
  • 腹部がゴロゴロと鳴る
  • 膨満感が強い
  • 硬くてコロコロした小さな便が出る
  • 人前で緊張すると無意識にガスが出てしまう
  • 旅行中も急な腹痛でトイレに駆け込んだことがある
  • 就寝中には症状が現れない
  • 1か月以上、お腹の調子が悪い

過敏性腸症候群の原因について

はっきりとした原因はわかっていません。感染性腸炎後の発症もあるため、免疫異常の関与も指摘されています。腸内細菌叢、食事内容、またストレスなどによって自律神経のバランスが崩れて腸の蠕動運動が乱れ、それによって症状が起こっている場合もあります。
腸は第2の脳と呼ばれており、脳と腸は密接な脳腸相関を持っています。脳からのストレス信号が神経管を通じて腸管神経叢に伝わり、それによる反応として便通異常、腹痛、ガスによる膨満感などを起こすことがあります。これが今度は脳へのストレスとなり、悪循環を起こすことがあります。過敏性腸症候群の場合、こうしたストレス信号が伝わりやすいため、過敏反応を起こしやすいと考えられています。
また、下痢や腹痛は腸内のセロトニンにも関係が深く、脳からのストレス信号によって腸内粘膜からセロトニンが分泌されて蠕動運動が乱れ、それが症状を起こしていることもわかってきています。

過敏性腸症候群の症状

お腹の症状

腹痛、下痢、便秘、残便感、膨満感、お腹がゴロゴロ鳴る

お腹以外の場所で起こる症状

不眠、不安感、抑うつ、頭痛、めまい、肩こり、食欲不振

腹痛をともなう便秘や下痢などの便通異常が長期間継続して繰り返し起こります。排便後、一時的に症状が軽快します。
食事内容によって症状が誘発されることはありますが、睡眠中は症状が起こりません。
典型的な症状は強い腹痛と便秘や下痢であり下痢型・便秘型・交代型に大きく分けることができますが、腹鳴(お腹が鳴る)、腹満感(お腹の張り)、ガスが止まらないなどが現れることもあります。

下痢型

突然、激しい腹痛が起こり、水のような下痢になって排便後は症状が改善します。こうした症状を1日に3回以上繰り返すこともあります。急激に強い腹痛や激しい下痢が起こるため、外出が困難になることもあります。また、トイレに関する不安が大きなストレスになって症状を悪化させる悪循環を起こすケースも多くなっています。

便秘型

腸管の痙攣によって便が滞ってしまい、ウサギの糞のようなコロコロした硬く小さな便が出ます。排便の際に腹痛が起こり、強くいきまないと排便できず、残便感があります。

交代型

激しい腹痛をともなう便秘と下痢を交互に繰り返します。

検査と診断

問診で症状の内容やはじまった時期、症状を起こすきっかけ、お悩みの点などについてくわしくうかがいます。
腹痛・腹部不快感が1か月間で3日以上あり、下記の3つ以上の条件に該当するかによって判断されます。

排便により症状が治まる

排便の頻度の変化にともなって症状が現れる
便の形状の変化によって症状が現れる

大腸がん、潰瘍性大腸炎、クローン病、感染性腸炎といった他の疾患がないかを確かめるために、必要な検査を行います。触診では腹部の腫瘤や圧痛の有無を確かめます。
下記の条件に当てはまる場合、大腸カメラ検査が必要です。

  • 50歳以上ではじめて発症した
  • 発熱をともなっている
  • 3㎏以上の体重減少が認められる
  • 直腸からの出血がある

過敏性腸症候群とその他の疾患の違い

過敏性腸症候群

症状:下痢、便秘、腹痛、腹部不快感
大腸カメラ検査では粘膜の異常はありませんが、腹痛や便通異常が繰り返し起こります。

大腸がん

症状:腹痛、便秘、血便、便が細くなる、残便感
大腸がんで腸内の便通過が妨げられると上記の症状を起こします。

炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎、クローン病)

症状:腹痛、下痢、血便
腸の粘膜に炎症や潰瘍、ただれができる炎症性疾患で、寛解と活動を繰り返し、難病指定されています。

感染性腸炎

症状:腹痛、下痢、嘔吐
ウイルスや細菌、寄生虫などによる炎症が起こっています。

大腸憩室炎

症状:腹痛、便秘、下痢、血便
憩室自体は無症状ですが、炎症を起こすとこうした症状が現れます。

乳糖不耐症

症状:腹痛、下痢、吐き気、鼓腸
牛乳などに含まれる乳糖を分解・消化する酵素が欠乏していると発症します。摂取した乳糖の消化吸収ができず下痢などの症状が現れます。

症状 血便、排便時の痛み
切れ痔は便秘による悪循環で悪化しやすく、いぼ痔は下痢や便秘による強いいきみで悪化や出血を起こしやすい傾向があります。

過敏性腸症候群の治療方法

食事療法

摂取を推奨されるのは水分と食物繊維です。また、栄養素のバランスがいい食生活も重要です。乳酸菌は腸内細菌叢のバランスを整えるためにも積極的にとってください。
控えるものは、香辛料、アルコール、油分の多いメニューです。また喫煙も症状悪化につながるため禁煙してください。

下痢型の方は脱水を避けるために、便秘型の方は便秘解消のために、十分な水分摂取が不可欠です。下痢型の場合冷たいものが刺激になって腹痛や下痢を起こすため、できるだけ常温や温かい飲み物をとってください。

運動療法

軽い運動を習慣付けすることで、腸の働きが正常に整う効果が期待できます。気分転換やストレス解消にもつながるよう、無理しない範囲で散歩やウォーキングを続けるようにしてください。

薬物療法

症状や状態に合わせたお薬を使用することで症状を改善します。不安がなくなることでストレスも減り、それによる改善効果も見込めます。便や腸の状態を整える薬、腸内のセロトニンの働きに作用して症状を抑制する薬などがあり、ライフスタイルなどにもきめ細かく合わせた処方を行います。

セロトニン3型受容体拮抗薬

下痢型過敏性腸症候群に処方されます。腸内のセロトニンの働きを抑えます。それによって下痢や腹痛の症状を改善させます。

高分子重合体

適切な便の硬さを保つための薬です。水分を吸収して便の水分バランスを整えます。

消化管運動調節薬

消化管運動や大腸の蠕動運動を抑制して下痢や腹痛などを改善させます。

下剤

腸の運動を活発にして便を柔らかくします。

乳酸菌製剤

腸内の乳酸菌を増加させて腸内環境を整えます。

抗コリン薬

腸の異常な運動を抑制して、腹痛などを緩和させます。

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